はじめに

近年、会社の業績と経営陣の報酬が明確に連動する「業績連動報酬制度」を導入する会社が増えてきました。この制度は、取締役など経営陣の年収について、全額を固定するのではなく、一定割合を業績の達成度などにより決定しようというものです。

背後には、業績と報酬の一部を連動させることで、業績向上に対する経営陣のモチベーションを引き上げる狙いがあります。つまり理論的には、業績連動報酬制を導入していると、その企業の業績は上がりやすくなると考えられます。そこで、業績連動報酬制度を導入している会社の株価パフォーマンスを調べてみました。


経営陣のモチベーションを上げる有用性

会社の業績が悪くなったとしたら、会社の中で誰が悪いことになるのでしょうか。確かに足元のように新型コロナウイルスの感染拡大で消費が低迷する中では、誰が悪いも何もあったものではありませんが、それでも現実問題として業績が悪くなると「誰に責任があるの?」という話になります。

3月16日の配信記事「『オーナー企業』の株価パフォーマンスは良いのか、悪いのか」でも触れましたが、会社は株式を保有している株主のものです。これは会社法に定められています。でも、実際に会社を指揮して動かしているのは経営陣です。

株主は経営者に会社の運営を任せています。ですから、株主総会を通じて経営にかかわる面もあるとは言えますが、実際の日々の事業活動に関与するのは難しい立場です。株主は「自分たちではどうにもならない」と思うからこそ、実際に会社の運営を任せている経営陣に責任があると感じます。

もし経営陣がその責任を十分に果たしていないと株主が感じれば、任期満了を迎える役員に対して、株主総会で再任への反対票を投じることもできます。しかし、再任否決の票を集めることは極めて難しいのが現実です。

それに株主としては、業績悪化の責任をとって経営陣に辞めてもらうよりも、そもそも会社の業績を良くしてもらって株価が上がるほうがありがたいわけです。したがって、再任の否決が可能というのだけでは効果的とはいえません。

業績連動報酬は実際に株価にプラスか

そこで効果的な制度として期待されるのが、業績連動報酬です。この制度を採用すると、会社の業績が悪いと経営陣の報酬が減り、逆に業績が良くなると経営陣の報酬が増えます。経営陣としては会社の業績を良くしようとして、経営に真剣に取り組むモチベーションにつながります。

効果はそれだけにとどまりません。業績が改善すれば、その評価が株価に反映される可能性も高まります。経営陣が株高をもたらしてくれる経営ができれば、経営陣は報酬が増えるし、株主もありがたいという、共通の目標を持つことができるわけです。

つまり、業績連動報酬の導入によって将来の株高も期待できます。そこで実際に業績連動報酬を取り入れている企業の株価パフォーマンスを調べてみました。

東証1部企業を対象に毎年1回、9月末時点で取得できる情報を使って、CSR報告書などの会社が公表する情報により業績連動報酬を「導入している企業」と「そうでない企業」を分類します。そのうえで、2020年1月までの過去5年間の月次株価収益率の平均を比較しました。

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