はじめに

9月8日に自民党の総裁選が告示されました。主要派閥から幅広く推薦人を集め、更に世論調査でも高い支持を示している菅官房長官が総裁選で勝利し、9月16日には菅政権が誕生する見込みです。

安倍政権の継続を強く打ち出しているため、菅政権は経済政策の多くの部分を継承するでしょう。メディアのインタビュー記事において、菅氏は、日本銀行の黒田総裁について「手腕を大変評価している」と述べました。当面、黒田総裁に金融政策を任せるとともに、金融緩和の徹底が次期政権でも重視されるでしょう。

<写真:ロイター/アフロ>


安倍政権で日本経済が回復した理由

2013年から、安倍首相によって任命された黒田総裁らが率いる日本銀行が、米連邦準備理事会(FRB)など海外中銀と同様に、明確な2%インフレ目標にコミットして緩和強化を徹底しました。これが2013年以降の日本経済の復調や失業率の低下などの、経済正常化の最大の原動力になりました。

そして経済改善が実現したからこそ、安倍政権は6度の国政選挙で勝利し憲政史上最長となる政権運営が可能になりました。金融政策の転換によって大きな政治的資源を安倍政権が得たわけですが、官房長官として安倍首相を支えてきた菅氏は、他の政治家などよりもこの経緯を深く理解していると見られます。

なぜ安倍政権において、日本銀行の金融緩和強化が実現したのか。安倍政権以前の日本銀行の金融政策運営においては、偏った経済思想にとらわれた官僚の理屈が重視されていたと筆者は考えています。これが長年問題とされていたデフレと経済の停滞を招いたと、首相官邸がはっきり理解したことが安倍政権において政策転換が実現した大きな理由だったでしょう。

菅政権でも金融政策への同じスタンスが引き継がれるとすれば、コロナ後の日本経済は正常化に向かう可能性が高まるでしょう。このため、日本の株式市場も、米国とそん色ない程度には期待できる投資先になりうると筆者は予想しています。ただ、このシナリオが実現するためにも、安倍政権が残した遺産(レガシー)を活かしながら、菅政権が長期政権となるかどうかが重要になります。

財政政策を拡張に転換するのはいつか

一方、マクロ安定化政策のもう一つのツールであり、金融政策をサポートする財政政策を菅政権はどう運営するのでしょうか。菅氏は、9月3日の記者会見で、消費減税に関して「消費税は社会保障のために必要なものだ」と言及、メディアでは「消費減税に否定的な見解」と伝えました。

実際には、この菅氏の発言は、高校無償化などの社会保障充実と同時に、消費税を引き上げた安倍政権の政策を、正当化する意味合いが大きいと考えられます。2014年に消費税を引き上げてから2019年までの約5年にわたり、安倍政権は緊縮的な財政政策をほぼ一貫して続けてきました。そして、コロナへの対応で大規模な所得補償などで2020年には財政政策は拡張財政政策に転じました。

当面は、コロナ感染状況、経済動向、そして総選挙を控えた政治情勢、などを勘案して柔軟に財政政策が運営されると筆者は予想しています。コロナの感染抑制が必要な現在の状況では、これまでのような所得補償政策による財政政策発動が主たる対応になるでしょう。

そして、コロナ感染リスクが和らぐと期待される2021年以降は、再度のデフレ脱却を確かにするため、財政政策の役割が総需要を刺激するツールに代わる局面にシフトするでしょう。そうした局面になれば、菅政権は、減税などの財政政策を総需要を高める手段として使うかどうかの判断を下すと筆者は予想します。

2%インフレと経済安定を実現する最大のツールは金融政策ですが、2016年以降は、政府が決める国債発行残高で、日本銀行による資産買い入れ金額が事実上規定された状態にあります。2020年になってから、政府の国債発行によって日銀による国債購入金額が増加に転じましたが、コロナ対応の非常時の後も、拡張的な財政政策を継続すれば金融財政政策が一体となり、2%インフレを目指す政策枠組みがより強固になります。そうなれば、安倍政権が完全には実現できなかった、脱デフレと経済正常化が達成される可能性が格段に高まると筆者は考えます。

安倍政権下で総じて緊縮的だった財政政策が拡張方向に転じるかタイミングは、コロナ後の財政政策スタンスが決まる2021年でしょう。そしてこれが実現するか否かは、来週明らかになる財務大臣などの主要な経済閣僚人事によって、ある程度判明すると筆者は注目しています。

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